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   中野研究室

腫瘍進行抑制に対する運動関の効果STUDY        →戻る

がん患者には,腫瘍に由来する炎症や貧血,筋力低下などの様々な身体症状が見られます.また,手術療法や化学療法などの治療によって生じる副作用,合併症により,活動量の低下すなわち廃用症候群をまねきます.その結果,がん患者の日常生活活動(Activity of daily life:ADL)や生活の質(Quality of life:QOL),生命予後が低下するリスクは高くなるといわれています1).そのため,がん患者に対しては積極的にリハビリテーションを行うことが推奨されており,具体例には有酸素運動とレジスタンストレーニングを主体とした運動療法が行われているのです2).
運動療法の効果の1つとして挙げられるのは筋力の維持,向上です.がん患者の筋力低下は頻繁に見られ,その主な原因はがん悪液質や廃用性筋萎縮の影響といわれています3).これに対しての運動療法の効果は,多くの研究で確認されました4-6).また,運動療法は貧血にも効果的であるといわれています.がん性貧血は,活動量の低下や倦怠感を引き起こし,活動量を低下させる原因となります1).Mohamadyら7)は,がん患者に対する中強度の有酸素運動が,赤血球とヘモグロビンを増加させ,貧血を改善すると報告しました.そして近年,運動療法は,筋萎縮や貧血といった身体症状の改善だけでなく,がん自体の予防,進行抑制,治療としての効果を及ぼすことが着目されています.例えば,Richmanら8)は,前立腺がん患者のうち週3時間以上のウォーキングをしている患者は,運動習慣がない患者よりがんが進行するリスクが57%低いと報告しています.また,基礎研究においては,乳がんモデルラットに対する中強度の運動が腫瘍の転移を抑制し,がん細胞のアポトーシスを促進するとの報告があります9-10).このように,がん患者に対する運動療法は様々な効果が期待でき,がん治療において重要な位置づけとなっているのです.しかしながら,がん患者に対する運動療法に関する先行研究の多くは,中強度以上の運動を対象としていました.また,臨床では中強度以上の運動が推奨されていますが1),がん患者は治療の副作用などの問題を抱えており,中強度以上の運動の実施は困難な場合があります.多くのがん患者に実施可能と思われる低強度の運動の効果についての統一した見解は得られていません.そこで,低強度の有酸素運動が乳がんモデルラットの腫瘍と,それに伴う症状に及ぼす影響について多面的に検証しています.


研究に使用している乳がんモデルラット

     
トレッドミル走行                    腫瘍重量の変化

1) 井上順一朗,神津 玲:がんの理学療法.三輪書店,東京,2017,pp. 106-114.
2) 石川愛子,辻 哲也:日本造血細胞移植学会雑誌.2016; 5: 107-117.
3) 片山寛次:日本静脈経腸栄養学会雑誌.2015;30:917-922.
4) Winters-Stone KM, Dobek J,et al.: J Cancer Surviv. 2012; 6: 189-199.
5) Lira FS, Neto JC, et al.: Appl Physiol Nutr Metab. 2014, 39: 679-686.
6) Mijwel S, Cardinale DA, et al.: FASEB J. 2018; 32: 5495-5505.
7) Mohamady HM, Elsisi HF, et al.: J Adv Res. 2017; 8: 7-12.
8) Richman EL, Kenfield SA, et al.: Cancer Res. 2011; 71: 3889-3895.
9) Alvarado A, Gil da Costa RM, et al.: Int J Exp Pathol. 2017; 98: 40-46.
10) Malicka I, Siewierska K, et al.: Exp Biol Me

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